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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1301号 判決

控訴代理人は、「判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人の陳述した主張の要旨は、原判決の事実に記載するところと同一であるから、これを引用する。

控訴代理人は、次のように述べた。

(一)  被控訴人の主張する事実のうち、被控訴人主張の本件家屋についてその主張のような各登記がなされていること及び被控訴人主張の確定判決があつたことは認めるが、その他の事実はすべてこれを争う。

(二)  佐藤倉吉は、昭和二四年一〇月一六日被控訴人主張のような停止条件附代物弁済契約を締結したものでなぐ、被控訴人に対する債務のため本件家屋を抵当に供したのに過ぎない。仮りにそうでないとしても、佐藤倉吉は、同人が右債務を弁済期に履行しないときは、代物弁済として被控訴人に本件家屋の所有権を移転すべきことを予約したのに過ぎないところ、その後なんら予約完結の意思表示をしていない。故に本件家屋が被控訴人の所有に帰属するはずがない。

(三)  控訴人は昭和二四年一二月二九日佐藤倉吉から本件家屋を代金一一万円で買受け、その引渡と共に登記手続に必要な一切の書類の交付を受け、昭和二五年一〇月一三日本件家屋について、これを東京都大田区新宿町一、四二四番家屋番号同町一、四二四番の四、木造紙葺平家建店舗一棟建坪一七坪五合と表示して、控訴人のため所有権保存登記をしたもので、本件家屋は控訴人の所有に属する。

(四)  かりに被控訴人が本件家屋の所有権を取得したとしても、被控訴人は、その主張のような同人の所有権移転の仮登記及び本登記によつては、本件家屋の所有権の取得を控訴人に対抗することができない。けだし、これらの登記は、本件家屋についてなされた佐藤倉吉の所有権保存登記に基いてなされたものであるが、佐藤倉吉の保存登記は左の理由によつて無効であるから、これを前提とする被控訴人の所有権移転の仮登記及び本登記も又無効たることを免れ得ないからである。即ち、(1) 佐藤倉吉は、前記のように、既に昭和二四年一二月二九日本件家屋を控訴人に売却して、これを引渡すと共にその登記手続に必要な一切の書続まで交付し、本件家屋については実質上も形式上もなんら権利を有しなかつたのであるから、昭和二五年二月一三日佐藤倉吉を所有者としてなされた保存登記は無効である。(2) 佐藤倉吉は本件家屋の譲渡人として、譲受人である控訴人のため登記を申請する義務ある者であつて、控訴人に対してはその登記の欠缺を主張し得ない者であるから、このような地位にある佐藤倉吉の保存登記は、控訴人に対しては効力を生じない。(3) 佐藤倉吉の保存登記は、本件家屋に対する被控訴人主張の仮処分の目的を達するため、その前提としてなされたものに過ぎないから仮処分の目的を達するため爾後の処分行為を禁止する効力のみを有し一般の保有登記の有する効力は持たない。

(五)  控訴人は、佐藤倉吉から本件家屋と共にその敷地の賃借権を譲受け、その譲渡について地主田中貞吉の承諾を得たが、更にその後昭和二八年一二月一一日田中貞吉から右敷地を譲受け、その所有権移転登記をした。しかるに、被控訴人は、右敷地を占有するについてなんの権原をも有しないから、かりに本件建物が被控訴人の所有に属するとしても、控訴人に対しこれを収去して右敷地を明渡すべき義務がある。故に被控訴人が控訴人に対し本件家屋の明渡を求めるのは、なんら実益がなく、権利の濫用である。

当事者双方の立証及びその認否は、左記の外は、原判決の事実に記載するところと同一であるから、これを引用する。

<立証省略>

三、理  由

(一)  成立に争のない甲第一号証、乙第九及び第一〇号証、原審証人小林准三の証言並びに原審及び当審証人佐藤倉吉の証言(ただし原審の証言のうち後記の信用しない部分を除く)を総合すると、佐藤倉吉は昭和二四年一〇月一六日被控訴人から七二、三五〇円を利息一ケ月一割五分、弁済期限同年一一月三〇日との約で借受け、若し弁済期限までに元利金を完済しないときは、その代物弁済として、佐藤倉吉の所有にかかる東京都大田区新宿町一四二四番地所在の家屋の所有権を当然に被控訴人に移転する旨の停止条件附代物弁済契約をしたが、同人が弁済期限までに右債務を弁済しなかつたので、被控訴人が右期限の経過と共に、代物弁済として、右家屋の所有権を取得するにいたつたことが認められる。(佐藤倉吉の原審における証言のうち右認定に反する部分は信用できない)控訴人は、佐藤倉吉は控訴人に対する債務のため、右家屋を抵当に供し、又は代物弁済の予約の目的物件としたに過ぎないから、これらのことによつては、被控訴人は右家屋の所有権を取得することができない旨主張する。前掲乙第一〇号証並びに原審証人小林准三及び当審証人佐藤倉吉の証言中には、佐藤倉吉は右家屋を被控訴人に対する債務のため「譲渡担保」又は単に「担保」に供した旨の記載又は証言があるが、これらの記載及び証言は、右認定を妨げる趣旨のものではなく、他に右認定を覆して、控訴人の主張事実を認めるに足りる証拠がない。

しかして、右家屋について、被控訴人のため右家屋の処分を禁止する旨の佐藤倉吉に対する東京地方裁判所の仮処分決定に基く嘱託により、昭和二五年二月一三日、右家屋を東京都大田区新宿町一、四二四番家屋番号同町一、四二四番の二木造板葺平家建店舗一棟建坪一七坪と表示する佐藤倉吉のための所有権保存登記及び右の仮処分登記がなされ、更に同裁判所の仮登記仮処分決定に基く嘱託により、同年八月一七日被控訴人のため前記代物弁済契約による所有権移転請求権保全の仮登記が、次いで原告被控訴人、被告佐藤倉吉間の同裁判所昭和二五年(ワ)第六八二号所有権移転登記手続請求事件の原告勝訴の確定判決により、同年一〇月二〇日被控訴人のため所有権取得の本登記がなされたことは、当事者間に争がない。

(二)  成立に争のない乙第一号証、原審証人佐藤倉吉の証言により真正に成立したと認める乙第三及び第七号証、原審及び当審証人佐藤倉吉の証言、原審における証人林九八、同本多午治(第一、二回)の証言、控訴本人の供述(第一、二回)及び検証の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は昭和二四年一二月二九日佐藤倉吉から右家屋を代金一一万円で買受け、即日代金を支払うと共に右家屋の引渡を受けてこれに居住し、昭和二五年一〇月一三日右家屋につき、これを東京都大田区新宿町一、四二四番、家屋番号同町一、四二四番の四、木造紙葺平家建店舗一棟建坪一七坪五合と表示する控訴人のための所有権保存登記をしたこと、右家屋は、約一七坪の木造平家建店舗一棟で、その表側の最初に建築された部分はルーヒング(紙)葺、その裏側の増築部分は板葺であつたが、控訴人が買受けた後、これに増改築を施して、現在の木造瓦葺平家建店舗一棟建坪一五坪七合五勺外附属木造トタン葺下屋建坪三坪五合(以下本件家屋という)とし、なお裏側の増築部分にある八畳間に畳八枚を入れ、雨戸四枚、襖二枚及び障子一枚を取り付けたこと、控訴人がした増改築部分は、従来の右家屋の屋根、壁、天井及び床並びにこれに建て増しされた附属下屋(台所、湯殿及び便所)であつて、いずれも一個不可分な本件家屋の構成部分であり、従つて右増改築部分の所有権は、附合によつて従来の右家屋の所有者に帰属するものであることが認められる。

(三)  以上認定の事実によると、佐藤倉吉は、被控訴人に対する債務の代物弁済として、昭和二四年一一月三〇日の経過と共に、同人に右増改築以前の本件家屋の所有権を移転し、その所有権移転登記をしないうちに、更に同年一二月二九日これを控訴人に売却したものであつて、本件家屋については、昭和二五年二月一三日佐藤倉吉の所有権保存登記があり、この保存登記に基いて同年八月一七日被控訴人の所有権移転の仮登記、次いで同年一〇月二〇日その本登記がなされている一方本件家屋につき別に昭和二五年一〇月一三日控訴人のための所有権保存登記があることになる。およそ一棟の建物については一用紙を用いて登記せられるのが不動産登記法の建前であるから、ある建物につき一旦登記がなされた以上その後それと同一の建物についてなされた登記は効力のないものと解すべきである。故に控訴人のした右保存登記はその効力を認められない。

(四)  控訴人は、佐藤倉吉の所有権保存登記は無効であり、従つてこれに基いてなされた被控訴人の所有権移転の仮登記及び本登記も又無効であると抗弁する。しかしながら、(1) 前記のように、控訴人が昭和二四年一二月二九日佐藤倉吉から本件家屋を買受けてその引渡を受け(又かりにその登記手続に必要な一切の書類の交付を受け)たとしても、これについて登記を受けるまでは、その所有権の取得を、同じく佐藤倉吉から本件家屋を譲受けた第三者である被控訴人に対抗することができないから、被控訴人に対する関係では佐藤倉吉は無権利者とはならない。故に本件家屋について控訴人が登記を受けないうちになされた佐藤倉吉の所有権保存登記を目して無権利者の保存登記として無効であるということはできない。(2) 佐藤倉吉は、本件家屋の譲渡人として、譲受人である控訴人のため登記を申請する義務ある者であるから、不動産登記法第五条の規定により、控訴人に対してはその登記の欠缺を主張し得ない地位にあることはもちろんであるが、このことのために、佐藤倉吉の所有権保存登記が控訴人に対して無効となるべきいわれがない。(3) 佐藤倉吉の所有権保存登記は、同人に対する本件家屋の処分禁止の仮処分の執行として、登記簿にその禁止を記入する前提として東京地方裁判所の仮処分決定に基く嘱託によりなされたものであることは、前記のとおりであるが、およそ保存登記は、それが裁判所の仮処分決定に基く嘱託によつてなされるのと、登記権判者の申請によつてなされるのとによつては、その効力に差異をつけるべき根拠はない。裁判所の仮処分決定に基く嘱託による保存登記も一般の保存登記と同一の効力を有するものと解せられるから、佐藤倉吉のための保存登記を基礎とした被控訴人の所有権取得登記を効力なきものとすべき理由はない。

(五)  以上の次第で、被控訴人は控訴人に対し本件家屋の所有権の取得を対抗できるのであるから、控訴人が本件家屋に附属せしめた前記畳八枚、雨戸四枚、襖二枚及び障子一枚を撤去して本件家屋の明渡を求める被控訴人の本訴請求は、正当として認容すべきである。

(六)  なお控訴人は、被控訴人の本件家屋の明渡請求を権利の濫用であると抗弁するが、たとい控訴人が本件家屋の敷地について賃借権又は所有権を有し、被控訴人がこれを占有すべきなんの権原をも有せず、従つて被控訴人は控訴人に対し右敷地を明渡すべき義務があるとしても、このことは、被控訴人の所有権に基く本件家屋の明渡請求権の行使を不適法ならしめる事由とはならないから、控訴人の権利濫用の抗弁も理由がない。

(七)  被控訴人が所有権移転の仮登記のあつた昭和二五年八月一七日にさかのぼつて、本件家屋の所有権を主張することができることは当然であり、控訴人が昭和二四年一二月二九日以来本件家屋に居住してこれを占有することは、既に述べたとおりである。しかして右仮登記の存することにより昭和二五年八月一七日以降は、かりに控訴人において本件家屋が被控訴人の所有に属することを知らないとしても、それは過失によるものと認められるから、控訴人は同日以降過失により被控訴人の本件家屋に対する所有権を侵害するものとして、これによつて被控訴人がこうむる損害を賠償すべき責任がある。

その損害額は、特別の事情の認められない本件では、本件家屋の相当賃料(本件家屋について前記の如き増改築が施されるときまでは、増改築以前の状態の本件家屋の賃料、増改築の施されたときからは、増改築以後の状態の本件家屋の賃料)に相当する額と認めるべきである。成立に争のない甲第三号証及び当審証人堀口俊男の証言によると、増改築以前の状態の本件家屋の適正賃料は、昭和二五年八月一七日以降昭和二六年九月三〇日までは一ケ月三、二九四円、同年一〇月一日以降は三、二九七円を相当とすることが認められる。増改築以後の状態の本件家屋の適正賃料については、これを認め得べき証拠がない。故に被控訴人の控訴人に対する損害賠償の本訴請求のうち、昭和二五年八月一七日以降昭和二六年九月三〇日まで一ケ月三、二九四円、同年一〇月一日以降明渡済にいるまで一ケ月三、二九七円の割合による増改築以前の状態の本件家屋の適正賃料に相当する損害金の支払を求める部分は正当として認容しその他の部分は失当として棄却すべきである。

(八)  よつて、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克巳 菊池庚子三 吉田豊)

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